世界観の把握とキャラクターの掘り下げによるシナリオチェック能力の高さ|株式会社サイバーエージェント

更新日:2023/02/01

プロフィール

株式会社サイバーエージェント
北村 亜土 様
URL: https://www.cyberagent.co.jp/

本日は「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業を展開されている株式会社サイバーエージェント様にお伺いしております。IMAGICA GEEQのQAサポートサービスについて、評価・印象など率直なご意見を伺いつつ、サイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部で目指している製品の品質や、プロジェクトで大事にしている点について、お話をしていただきたいと思います。

QAとテストは利益を守るポジション

――株式会社サイバーエージェントのゲーム・エンターテイメント事業部様にお伺いしております。長くお付き合い頂いておりますが、IMAGICA GEEQのサービスについて様々なご意見を頂きながら、考え方などをお聞きしていきたいと思います。

北村氏: どうぞよろしくお願いします。

――北村さんの所属されている部署、担当業務についてお聞かせください。

北村氏: 私は、ゲーム・エンターテイメント事業部(通称SGE)に所属しています。SGEは、子会社制をとっており、現在10社以上の子会社が所属しているのですが、その中で子会社を横断する部署、SGE統括室にある技術統括室の中でQA担当をしています。担当業務としては主にテストに関わるサポート全般を行っております。

――メンバー構成はどのようになっているのでしょうか。

北村氏: 技術統括室には、合計4名が所属しています。QAに関しては私1人で担当しております。

――北村さんのご経歴についてもお伺いしてよろしいでしょうか。

北村氏: 初めてQAという職に就いたのが15年以上前になります。某社のQA管理アシスタントとして入社しました。当時は何をする仕事なのか詳しくは分かっていない状態でして、書類選考で落とされるだろうなという感覚でいました。内定のご連絡を頂いた時はとても驚きましたね。その時の事はとてもよく憶えていて、今はもう無くなっている秋葉原のゲームセンターで遊んでいる時に電話がかかってきたんですよ(汗)

その後、遊技機の会社さんに転職をしてテスト業務と管理者を経験しました。ただ、その時はすでに自分の進む方向とやりたい事が見えていた時期でした。ところが当時の環境では自身の目的を叶える事が難しいなと感じていました。そんな頃に元同僚がIMAGICA GEEQさんに入社されていて、東京テストスタジオを立ち上げるタイミングで入社させていただきました。サイバーエージェントには新規ゲームのテスト管理者としてIMAGICA GEEQから出向していました。経験を重ねていくと徐々に業務の幅も広がり、様々な種類の情報を目にする事が増えていったのですが、情報が活かされておらずもったいないと感じる機会も増えてきました。自分でどうにか情報を整理して活用したいと思い、サイバーエージェントとIMAGICA GEEQの上長に相談した上でサイバーエージェントへ入社したという経緯になっています。

――北村さんが担当する業務で大事にしていることや考え方など教えていただけますか。

北村氏: 大前提としてはリリースするタイトルの守りとなる事ですね。QAとテストは信頼性を守るポジションだと考えています。リスクの予防も当然ですけど、障害が発生する前提で日々業務改善を行うという点を大事にしています。

QA単体としては凡事徹底で、当たり前のことを当たり前にするという所を心掛けています。ただ、それだけだと業務に進化がないので、他業種の手法や思想を積極的に収集して、業務に落とし込めるように努めています。例えが変かもしれませんが「暇になること」を目指しています(笑)
持論なのですがQAってお医者様や消防士と同じポジションで、忙しいという事は既に問題が発生してしまっている状態ですよね。そういう意味ではQAが暇なほどプロジェクトが上手く回っているという証左になるのかなと思います。その為にもリスク予測の精度をもっと上げたり、対応の引き出しをもっと増やしたりしていきたいです。

テストに関して言うといくつかあるのですが、私の場合は外部の会社様とのやり取りが多いので残業と休日出勤はなしという所をメインに考えています。テスト業務の残業ってプロジェクト全体が残業してしまう事になるので、如何にユーザーシナリオに沿って急所を押さえるかを自身のテスト計画の根っこにしています。効率改善という所だと自分で項目書を作成した後に、一度自分で通して確認してみて上の項目から一筆書きでちゃんとテスト実施が出来るかなとか、見逃せない観点があれば前例などを書いてあげるといった工夫をしています。ちゃんとしたテスト管理者からするとカバレッジの網目が大きいと感じる所もあるかと思うのですが、例えば想定される不具合はこれだけあるけど、ここさえ押さえておけば派生の不具合は抑えられるという所を考えた上でわざと粗くしている所もあります。設計について不安な点があれば質問やご提案をいただけるとありがたいなと思います。

――リスクヘッジ、業務効率の改善、テスト工数の削減などは開発側の体制を整えるという事も重要かと思いますが、北村さんから開発サイドへの働きかけなどはされていますか。

北村氏: 基本的に最初はテストを回すという所を重視して、開発の方々にはデバッグコマンドやツールなどの開発を優先して対応して頂くという事で効率化を働きかけています。

――開発内部での情報と外部に出す情報とでは、温度感の認識の違いなども良く発生しがちだと思うのですが認識の違いを防ぐ為の工夫はありますか。

北村氏: 温度感を埋める工夫は正直な所、これという正解がまだ持てていないです。内部情報には外に出せない数字も入っているので、それらを除いた先々のスケジュールを事前に共有し、繁忙期のタイミングをお伝えしておくようにはしています。温度感に関する対策とは異なりますが、人の増減を少なくしたいので増やしたとしてもプラスで1~2名に収まるように調整しています。新規タイトルでもMAXで8名までしか使わないようにしていますね。

テスト観点のブレがないという事の安心感

――かなり長いお付き合いになりますが、弊社サービスをご利用頂いている際に特に印象深かった出来事はありますでしょうか。

北村氏: 印象深かった所と助かっている所という意味になるのですが、特にキャラクター性であるとか世界観に対するテストです。散らばっている情報をまとめて自分達なりの資料を作って頂いていた時は非常に助かりました。これって外部内部に関わらずに言える事なのですが、人の入れ替わりでテスト観点にブレが発生するという事がありますので、そこをしっかりと拾って頂けるのはとても安心感が高いです。テスターさんと直接お話しする機会をいただいた際、特にキャラクターについてとても熱い反応が見られ、いいチームだなと感じました。
それから定期的にお願いしているタイトルのパフォーマンスチェックに関しても、最初からかなり高い精度でフィードバックを頂いていまして、こちらが求めている物をしっかりと理解してくれているのだと感じました。
他に印象深い事ですと、作業量の見極めがとても的確な管理者さんに入っていただいたことがあり、ダメな物はダメと断っていただけたので、プロジェクト内の調整も凄くやりやすかったのを覚えています。

「仕様書通りである事」という便利な言葉

――IMAGICA GEEQへの課題、さらにこうして欲しいなどの要望がありましたらお教えください。

北村氏: 一つは発生し得るリスクのイメージをさらに深く持ってほしいと思います。全てのタイトルではないのですが私がテスト設計した際に項目にわざと私たちの基準でAランクのバグを見逃すように項目設計をしているんですね。なぜかと言うと管理者さんのレビュー能力を見るために空きのある項目を渡してフィードバックが来るかどうかを待っています。仕様書相違とか項目書作成をした後に仕様が変わって更新漏れしていますよーと連絡は頂くのですが、機能が提供する価値、どういうリスクを検知したいのかという観点が大事ですので、ここについては私も含めてですがお互いに成長の余地があるかなと思っています。

テストについては急所を押さえておけばその後の派生も防げる確率が高くなりますし、単純なコスト削減にもなります。削減したコストで追加のテストも出来ますし、試したい取り組みなどがあれば遠慮なくご提案いただいてテスターさんには自身の経験値にしていただければと思っています。

もう一つはIMAGICA GEEQさんに限った事ではないのですが、テスト項目の作成をお願いした時に期待値に仕様書通りである事や違和感がない事というのは書かないで欲しいです。私も昔は使っていた便利な言葉なのですが、ゲームのテストにおいては仕様書を絶対な正と思ってほしくないです。テスト時の状態を項目書から確認できないのは単純にトレーサビリティも落ちるので、ここは気を付けておきたいなぁと思っています。全て言葉に書き起こすのは大変だと思うのですが、ゲーム開発の一つの特性だと思っていただけたらと思います。

――北村さんからIMAGICA GEEQにお聞きしたいことはございますか。

北村氏: QAとテストがゲーム業界では同一視されがちだと思うのですが、IMAGICA GEEQさんではQAとテストの違いはどのように区分しているのか、それぞれのキャリアに必要な素養や育成プランがありましたらお聞きしたいなと思います。

――テストに関してはQAの中の一つの作業として捉えているのですが、なるべくテストの自走力を高めるという事を意識しています。人数が多いタイトルだとリーダーだけで全て細部まで把握するというのは難しくなります。先ほどは項目書であえて漏れのある物を作っていると仰っておりましたが、観点漏れなどに気づけるという能力をテスター1人1人が身につける必要があるので、テスターに対する教育は各案件で重視している所ですね。私もリーダーが楽をするという考えは良い事だと思います。テスターの自走力が高ければリーダーが管理に注力する事で案件が上手く安定して回りますので、そういった意味でもテスターに対しては個々のテストするスキルを高めるという所を重視しています。

QA全般に関してはタイトルを管理しているリーダーが意識する所だと思いますが、一つのバグが事業の継続を危ぶむようなリスクにもつながる可能性もあります。どういったリスクがあって影響を及ぼすのか、ユーザーに与える影響とご依頼頂いているクライアントの影響とを意識して品質管理全般への意識を向けていく事が必要かなと思います。

北村氏: なるほど、ありがとうございます。

シナリオチェック能力は頭一つ抜き出ている

――それでは次の質問ですが、他の担当者やお知り合いの方にIMAGICA GEEQのサービスを紹介する事になった場合、どういった所をお勧めしますか。

北村氏: シナリオを大事にしているタイトルであればIMAGICA GEEQさんはかなり推せると思っています。日本国内リリースのシナリオチェックに関してはIMAGICA GEEQさんのチェック能力は頭一つ抜き出ているなと思っていて、通常のテキストやサウンドバグの検知に加えて、ご提案頂く内容が自分ならこうするの様な意見が排除された状態で出してもらえるので、客観的に見て確かに直さないとダメだよねと納得感のある物が多いです。なぜなのかなと考えた時に、世界観の把握が早いのかキャラクターの掘り下げが凄く上手なのか私も良く分からないのですが、シナリオチェックについては特に凄いなと思っています。

それからテスト実行の部分では、良くも悪くもといった部分になるかもしれませんが、テスターさんの能力のばらつきが少ないです。凄くバランスが良く、例えば人が入れ替わったとしても、テスト実施に影響が出ないので人の交代に関しては懸念がありません。ただ癖のあるテストというのがたまにあるのですが、そういう場合は懸念があるかもしれません。
私の場合は新規開発タイトルを見る事が多い為、良い方の利点が勝ります。外部の会社さんを検討する際には必ず選択肢に入ります。

――癖のあるテスターさんについては、センスやどのようなタイトルを経験しているかによっても変わってきますね。なかなか育成というのは難しい所もありますので、今後の課題として採用にも注力していければと思います。

北村氏: テストカバレッジを測って、仕様ベースで安定感が高い方が良いのですが、昨今ではリリース速度もどんどん早くなっており、探索テストでこのポイントだけやって欲しいという状況も増えてきそうな気がしています。そうなった場合にはテストの勘所が分かる、尖ったテスターさんがいると良いかなと思います。

――北村さんがQA以外に取り組んでいる事が色々とあると思うのですが、今後ご自身でこうして行きたいと考えている事や、IMAGICA GEEQが協力できる事があれば教えていただけますか。

北村氏: 取り組みという点で言いますと、少し哲学的な所になるかもしれませんが、品質という言葉を便利にしないための取り組みは進めたいと思っています。課題として多様性のあるキャリアプランやマインドのマニュアル化や、横断的な話ですとノウハウ共有の容易性なども思いつきますが、ゲームQAにおける品質評価の一元化は必要と思っています。品質保証と言っても実際に何の保証をしているのか説明が難しくて、現状だとTPOで変化してしまうというのも事実です。
特にゲームは面白さも品質として求められ、品質という概念の中の面白いという概念を評価するのはかなり難しいなぁと思っています。
とはいえユーザーに保証された結果を届けるのがQAという職です。直感で良し悪しを決めないで、納得感の高い結果を提示できるような基準を作りたいなと思っています。

これに関しては心理学の文献や、映画で記録係やスクリプターという職があるので、そのような方々の記事も参考に、評価の記録と精査を専門にした、「ゲームであればどの様なプロジェクト戦略においても過去に記録した品質を再現できる」支援部門があればいいなと思っています。私もそういった方向に進みたいと思っていて道筋は立てています。もしご協力いただければ是非ともと思っています。